前項に引き続き、「湯田中 渋温泉郷」のひとつ角間温泉をお送りいたします。田畑が広がる集落に6軒の宿と3つの外湯がある小さな温泉地。中心には前項で紹介した外湯「大湯」があり、その隣に建つ木造3階建ての宿「越後屋」さんの佇まいは、明治後期の建築で2階部分の床の梁が1階の外壁より外にせり出した、出梁造り(だしばりづくり)。大湯と並ぶ美しい立ち姿にうっとりします。
老舗感たっぷりの看板、シビレます
重厚感ある木組みの出梁造り
飴色に光る床や階段の見える玄関で入浴をお願いすると、快く迎えていただきました。
中に入って、たたき仕上げの廊下に3つの浴場があり、全て貸切利用となっている。
一番手前の「家族風呂」はレトロで小粒なタイルで埋め尽くした2人サイズの浴槽に透明な湯が張る。湯底がフラットではなく、リクライニング・チェアのような造りになっていてアメリカンタイプのバイクに跨ったようなカタチでの湯浴みができる。気分は「イージーライダー」のデニス・ホッパー。鉱物臭のある弱食塩泉はサッパリとした肌触りだが、汗が噴き出すあたたまりの湯。さらに身体を包み込むようなリクライニングと小粒なタイルのやさしい肌触りも相まってすこぶるキモちE。
浸かるとこんな感じ。湯口のつぶらな瞳のカエルさんに監視されます。湯にアヒルちゃんでも浮べれば、さらにデニス・ホッパー感がアップすること間違いナシ。
湯殿の正面には大正ロマン感じるアーチ型の窓がつく。
隅にあるカワイイ流し台も総タイル仕立て。腰壁のグラデーションの効いた意匠や円柱のヒスイ色のタイルに見入ってしまいます。
真ん中の「大浴場」は、ヨットの帆のような形をしたタイル張りの5・6人サイズの浴槽。腰壁には明治時代のイタリア製「マジョリカタイル」、窓面には硝子ブロックが施された凝った意匠の湯殿。
レトロなマジョリカタイルは、花菱とコウモリがモチーフとなったハイカラなやつ。
窓面に施された硝子ブロックは一般的なものより青みが強く、放射状にドットの窪みがついたサイケデリックなやつ。
この湯殿で特筆すべきは、湯口のヴィーナス。水瓶を持つ裸婦像は中世ヨーロッパ系のお顔ではなく、昭和初期の女学生といった日本人顔。僕は勝手に「さっちゃん」と名付けました。さっちゃんの持つ水瓶と手には、カルシウム成分がエビフライのようにこびり付いていて、絵面がチョット怖い。
そして一番奥にある「檜風呂」。
大正ロマンから打って変わって檜のお風呂。小ぶりな湯船に2つの湯口から注がれているためか3つの浴場のなかで一番熱く感じた。三者三様の浴場はお客を楽しませる工夫がされていてとても好感がもてます。
たたきの廊下に埋め込まれた木製の歯車やタイルに遊び心を感じます。シャレオツです。
休憩所にはゴキゲンなマッサージチェアと扇風機が並ぶ。角ばったデザインが古いアメ車みたいでイカしてますね。湯に癒され、五感をビシビシ刺激してくれる湯殿や館内のしつらえに転地効果の高さを感じずにはいられませんでした。
越後屋さんをあとに、次に向かうため集落を歩いていると、斜面地の畑でトラ発見。ビニール製の獣除けだと思われるが、これにもほっこりさせられました。では皆さん、健康で素敵な湯巡りを。(訪2018年9月)