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執筆者の写真きい

湯河原温泉 亀屋旅館(神奈川県)p.105


湯河原温泉は神奈川県の南西端に位置し、町域の大部分が箱根火山南東麓の山地帯で、南境沿いを流れる千歳川とその支流の藤木川の合流点付近が温泉の中心街となる。海にも近い山峡の静かな環境にあり、万葉の古歌にも「足柄の 土肥の河内に 出づる湯の 世にもたよらに 子ろが言わなくに」と詠まれた歴史ある温泉場である。解釈「二人は、足柄の土肥の川に湧く温泉のように、絶えることはけっしてないとあの娘は言うのだけれども、・・・」と男の不安な気持ちを詠んでいる。(昔、湯河原温泉は土肥と呼ばれていたそうです。)


そんな温泉場の高台に佇む「亀屋旅館」さんは、明治18年創業の老舗旅館。81℃と59℃の温度の異なる自家源泉を2本持ち、男女別の浴場以外の全客室のお風呂もすべて自家源泉のかけ流し。それでもお湯が余るので他の宿泊施設などにも供給するほどだそうです。玄関に紅白の提灯かかる木造の趣きある佇まい。


昭和感溢れるステキなフロントには鹿の剥製、木彫りの大黒さんとエベッさん、たくさんの亀の置物、ブルドッグの置物、古時計などが骨董市のように並んでいる。


さらにカワイイ夫婦狸の置き物も。湯河原温泉は狸が発見したという伝説があるのです。白塗りのお顔がアメリカのロックバンド「KISS」のピーター・クリス状態。


亀屋旅館さんの男湯は中に入るといきなりパルテノン神殿ばりの柱が5本立ち、その隙間の先にチラリズム的に浴槽を見せるエロいしつらえ。


戦後、間もない昭和23年頃に造られたという小粒なタイルで埋め尽くされた湯殿には、ビヨ~ンと両サイドから餅を引っ張ったようなサイケなかたちの5・6人サイズの浴槽が鎮座する。適温に調節された無色透明な湯はほんのり鉱物臭があり、お隣の熱海温泉のようなクッキリ強めの塩味ではなく微かに感じる程度の石膏・食塩泉。生まれたて、鮮度バツグンの湯を味わえる。


源泉がまーるい石玉をスライドするように注がれ、湯口の周りにはカルシウムなどの析出物がこびり付く。源泉100%のたまもの。


凝りに凝った美しいタイルの意匠を眺めずにはいられない。湯の心地良さも然ることながら小粒のタイルで施された浴槽の肌触りもとてもやさしいのです。


グラデーションを施した壁や柱。角部分(出隅)はアール状に施工するなど当時のタイル職人の細部へのこだわりが見て取れる。


館内の昭和感溢れるカラフルな意匠、カワイイ看板がかかる売店、あまりのビジュアルの強さにスイスイ吸い寄せられてしまう。


カラフルな壁の先には「あらっ、いらっしゃいっ」とハスキーボイスの青江三奈が迎えてくれそうなバーカウンターがある。天井にはミラーボール、紅いカウンター、時代遅れな妙味がムンムン漂っている。


浴後、宿のご主人に浴場や館内のしつらえに興味を示すと色々とお話してくださり、そのうえ館内の客室や現在使われていない露天風呂にまで案内して下さいました。2階に上がり迷路のような館内を歩き進むと赤い欄干のついた橋に出る。


橋を渡った先の卓球室にある今はもう動かない懐かしのピンボール台。古き良き昭和で時が止まったかのような館内に僕のハートはロックオン。亀屋旅館さんは現在、素泊まりと日帰り入浴のみの営業形態(要電話確認)をとっているが、この古き良き昭和感を生かし、テレビやグラビアなどの撮影の場としても提供している。ミュージシャンや演歌歌手のPVや映画のロケ場所としていい画が撮れそうですもんね。


現在は入れないが、この露天風呂もグラビア撮影などにつかわれるという。


客室にも案内していただいた。この客室、なななんと、あの伝説のF1レーサー、アイルトン・セナが宿泊した部屋だという、嘘みたいなホントの話をのほほーんと話すご主人にクギ付け。ぱっと見、一般的な和風旅館の部屋に見えるが、部屋にある岩風呂や組子障子などの細部にこだわった純和風の瀟洒な意匠がみられる。


天井には装飾などにつかわれる高級杉材、神代杉の虫食いが施されている。迫力あります。あのセナもこの神代杉を観ながら眠ったんだなあ~と思うと感慨深いものです。湯河原には昔、文人、画人が足繁くかよったというイメージが強いが、まさか伝説のF1レーサーまでもが湯河原の湯に浸かっていたとは驚きです。湯良し、ビジュアル良しの湯宿が湯河原にはあります。では皆さん、健康で素敵な湯巡りを。(訪2018年4月)

●この記事はネットマガジン「YUKO TABI」でも掲載されておりますので、よろしければそちらもご覧ください。「旅館」というカテゴリーから探すと見つけやすいかとい思います。

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