福島市の北部にある飯坂温泉は摺上川沿いに大小様々な宿が軒を連ねる一大温泉街。鳴子温泉、秋保温泉と共に奥州三名湯に数えられる東北きっての温泉地の開湯は2世紀ごろ、日本武尊の東征まで遡るとか。江戸時代には「奥の細道」で芭蕉が「…其ノ夜飯坂ニトマル。温泉アレバ湯ニ入リテ宿ヲ借ル…」と記している。大型イメージを持つ温泉街だが明治以来の古い宿や松尾芭蕉像や与謝野晶子の歌碑が点在する由緒ある歴史も感じさせてくれる。
平安時代、「佐波来湯」(さはこゆ)という名が和歌で詠まれており、飯坂温泉の原型であったとされる。その名が受け継がれた共同浴場「鯖湖湯」(さばこゆ)は芭蕉も浸かったとされる飯坂温泉のシンボル的存在だ。日本最古の木造建築共同浴場として親しまれてきた湯殿は1993年に新たに建築され明治当時の面影そのままに再現された。美しいカーブを描いた銅板葺き屋根の風格ある立ち姿を前にうっとり。
ヒバ、けやき、ヒノキを使われたアカデミックな湯屋建築。
訪れた日は昨年(2017年)の年末、地元の人たちが「年明け前にこんなに降るのはあり得ない」というくらいの大雪で、屋根の湯気抜き部分から雪水が入り込み、脱衣場の床が濡れていた。
脱衣棚の上にかかる木造り温泉分析書
さらに見上げると美しい湯気抜きがついた天井
脱衣場と湯殿には仕切りがない浴場で湯殿の真ん中に黒御影石で縁どりされた6・7人サイズの浴槽が鎮座する。シンメトリックでお行儀の良い空間が厳かなムードを醸し出す。熱いと評判の飯坂の湯に恐る恐るつま先から入る。ちいさな唸り声を発しながらゆっくり身を委ねる。お笑い芸人がいいリアクションをとるには申し分のない熱さだ。肌にじんじんと響く熱さだが徐々に慣れてくる。とはいっても長くは浸かれないので浸かっては出てを何度か繰り返す。
クリアな湯はサラリとしたアルカリ性の単純泉で湯口からは47~8℃の湯がこの通りとうとうと注がれている。高窓からのやさしい灯りが心地よく、仄かにヒバの香りに包まれた空間での湯浴みはビバ(万歳)三唱。
鯖湖湯横のドデカイ木の樽の貯湯槽の櫓が建つ。ここで一度溜めた源泉を鯖湖湯のほか、周りの湯宿にも配湯される。
さらに鯖湖神社があり鏡内には身体の癒したい箇所に温泉をかけると良くなると伝えられる「泉仏お湯かけ薬師如来」が祀られている
僕は頭にお湯をかけてお参りしました。今のところなんの効果もありません。では皆さん、健康で素敵な湯巡りを。(訪2017年末)