前項に引き続き奥鬼怒の湯沢の野湯群をお送りいたします。広河原の湯の翌朝7時頃、テントをデポしたまま、さらに上流の湯沢噴泉塔を目指した。スタートから川を遡上し幾度と渡渉しながら登山道を進む。
広河原から30分程で噴泉塔手前に湧く「せせらぎの湯」と呼ばれるポイントに到着。もくもくと湯けむりを上げる光景に思わずニンマリ。
対岸の脇の小さな湯溜まりからプクプクと湯が湧出し川に向かって流れている。触るとかなりアチチです。
そこから最後の急登を登り詰めると下方に湯けむりを上げる滝が見える。その滝が天然記念物「噴泉塔」のある滝で広河原の湯から50分程で到着。
これが天然記念物「湯沢噴泉塔」だ。滝壺の手前にある高さ5・60cmほどのもので岩盤から94℃の湯が噴き出し、湯に含まれる炭酸カルシウムなどの沈殿物が長い期間をかけて三角錐の小塔を造りだすもの。
逆側からのアングルは北アルプスの名峰、槍ヶ岳の如く槍と小槍の形状を成していた。この塔を傷つけたり折ったりすると山の神の怒りに触れて災いが降りかかるという。
接写では若干の卑猥な絵面は否めないが、先っちょからはピュピュっと湯が湧き出しダラダラと小塔を伝って垂れ落ちる。自然が造りだしたリアルな金精様にも想えてしまう。
噴泉塔滝つぼの「噴泉塔の湯」にいざ入湯。右側の淵の上の岩盤から源泉が滴り落ちる湯壺。四谷怪談を想わせるおどろおどろしい析出物の先端から注がれる激熱の湯の下で湯浴みをするという野湯だ。
どろおどろしい析出物から滴る激熱の湯を浴びながら四谷怪談の中へ入り込んだ。浸かっている滝つぼの水は冷たく、上から滝つぼに降りかかる湯は激熱で湯浴みというより禊。
中には「ドットの女王」草間彌生のカボチャのオブジェが鎮座する。冷たさと熱さに悶絶しながら美しい造形美を愛でるオツな禊だ。
一部には雷おこし状態の析出物も。ここは自然がもたらす前衛アートのエキシビション会場。
滝下、右岸に湯が溜まる一人用の小さな窪みにも浸かった。一人用といっても脚を折りたたみ、あぐらを組んだ状態でヘソ辺りまでしか浸かれない。湯はうっすら白濁した湯で浸かると下に溜まった土が舞い上がり黄土色に変色する。適温の湯は仄かに硫化水素臭を放ち、下流の広河原の湯ではなかった塩味が感知できた。
お行儀悪いが誰もいなかったので、胴体部だけ浸かった状態ででーんと脚を伸ばした。すぐ前には噴泉塔の滝が迫る。
見上げれば秋色に染まった木々が。露出した肌は秋の風にさらされ冷たいがこのロケーションに圧倒、ゴキゲンな湯浴みとなりました。
一時間ほど湯浴みと禊とアート鑑賞を堪能し広河原に戻った。テント撤収後、広河原で一緒だったベテラン湯守たちと一緒にブルーシートの片付けをした。ブルーシートや塩ビ管などは常時源泉口辺りに置いてあり、使用後はキレイにたたんで戻すようにしましょう。では皆さん、健康で素敵な湯巡りを。(訪2017年10月)
※このトレッキングはしっかりとした登山装備が必要です。さほど距離はないですが崩落個所やルートを見逃しやすい箇所もあるので登山経験の浅い方にはおすすめできません。ここ数年、鬼怒沼や日光連山の中腹あたりでは熊出没の連絡も増えているようです。ぼくもこのトレッキング下山中、5・60m先の崖下で200kgクラスの熊を発見。鈴音を鳴らしていたぼくの姿に気づき猛ダッシュで走り去っていきました。熊鈴やラジオの持参もお忘れなく。