前項の大沢温泉からさらに県道をさかのぼった豊沢川の渓谷に湧く花巻南温泉峡のひとつ、鉛(なまり)温泉。湯の歴史は、今からおよそ600年の昔、白猿が桂の木の根元から湧き出す湯に手足の傷を癒しているのを発見し以来、「白猿(しろざる)の湯」(俗名:桂の湯)と呼ばれるようになったのが始まりだったようです。
一軒宿の藤三旅館は旅館部と湯治部に分かれており、旅館部本館の昭和16年築の総欅造りの3階建の艶やかな立ち姿に思わずうっとり。赤い唐破風が付いた玄関に高下駄の花魁姿が目に浮かぶドラマティックな佇まいだ。
今回、3年ぶり再訪。日帰り入浴は本館とは逆側の湯治部での受付となる
藤三旅館さんの名物風呂「白猿の湯」(混浴)は地階から三階までの広大な吹抜けの湯殿。引き戸を開け20段ほど階段を下りたところに脱衣場があり中央に大きな小判型の湯壺が鎮座。瞬時にして異空間に吸い込まれる。深さ約130㎝もある立って入る珍しい温泉は日本一の深さ。無色透明の湯が湯底の岩盤からこんこんと湧出する。
訪問時、雨のため横を流れる豊沢川の水かさが増すと湯温が少し下がるそうで気持ちぬるめの湯加減だった。天候、季節、時間帯により湯温が変化するそうです。微かに硫化水素臭のあるアルカリ性の単純泉はクセのないサラリとした浴感。立って入る温泉は意外と疲れると思いきや、軽い浮力が手伝ってかビシッと背筋が伸びる感覚がありキモちE。見上げると床から一階分の腰壁が石板張りで、それより上の湯気抜きまでは格子窓と板張りの威風堂々たる湯殿は一度入ればネバフォゲ(Never forget)
一角にぬるめの一人用の湯壺もある
男女別の露天風呂付き浴場の「桂の湯」は桂の木の根元から湧き出たという鉛温泉由来の名前が付く。6.・7人サイズの石板を敷き詰め白い目地が際立つシャレた湯壺。奥の扉から露天風呂に抜けられる。
豊沢川に面した清々しい露天風呂。豊沢川のワイルド且つスピーディーな流れを間近で感じる野趣溢れるリヴァーサイド露天。湯は内湯よりも熱めで細やかな白い湯花が舞う。
黄土色の砂をセメントに混ぜ込みマーブル模様が浮き出た湯壺
露天の湯からさらに川側に数段下りたところに2人サイズの小さな湯壺がある。湯面が川の水位と変わらないほどすれすれにせり出した湯壺に身を沈めるとほぼ川と同化している。
旅館部にある「銀(しろがね)の湯」と「白糸の湯」は男女交代制で訪問時入れたのは「銀の湯」だった。暖色系タイル張りの小ぶりな湯殿。改装後間もない感じのきれい浴場。赤御影石の2・3人サイズの浴槽でレンガ造りの湯口からは拡散噴射で注がれる。窓から豊沢川の対岸に小さな滝が望める。
伝統的湯殿での立ち湯、野趣溢れる露天風呂、小ぢんまりとした内湯など趣味や気分に応じて選べるのも5本もの源泉をもつ鉛温泉のなせる業であろう。次回は是非宿泊で。では皆さん、健康で素敵な湯巡りを。