前項まで4項にわたって紹介してきた長野県栄村の秋山郷の温泉、ラストを飾るのは屋敷温泉 秀清館です。前項の小赤沢地区に隣接する屋敷地区には源頼朝に破れた平勝秀の残党が草津から逃れ、この屋敷村に隠れ住んだという「平家落人伝説」が伝えられている。国道405号の屋敷バス停から中津川に下り、橋を渡った対岸に湧くいで湯。
なぜか玄関脇に露天風呂が。目隠ししてるようだが、ほぼ丸見えなのは否めない。この日は上野原地区の宿「のよさの里」にあるキャンプ場でテン泊を予定していたが、降ったり止んだりの天気だったので急遽、秀清館さんで素泊まりさせて頂きました。
秀清館手前にある案内看板。平家のかくし湯だけに看板まで草に覆われ隠れ気味。自然がもたらした粋な演出だ
秀清館さんの内湯は前面にでぇーんと大きく窓がとられた明るい湯殿。床には桧のスノコが敷かれ、手前にある5・6人サイズの石造り浴槽にはウグイス色の湯が張る。秋山郷では珍しい硫化水素臭のある硫黄泉。適温に調節された湯はあたりがやさしくとろみのある湯でよく温まる。その対角にはひとり用の寝湯ができる浅い浴槽がある。源泉のまま50℃近い湯温なので一番近い洗い場のシャワーヘッドを引っ張って水を埋めて浸かった。浴槽が小さい分、こちらの湯は酸化する手前で無色透明。溶き卵のようなでかい湯花が舞う。
窓からは渓流を挟んだ対岸に小学校が見える。ごく一般的な小学校のように見えるが、なんと生徒数が小学4年の男子生徒が一人だそうです。様々なケアや他校との交流などあるとは思うがさすがに一人はかわいそうだなぁ…
玄関脇の露天風呂(混浴)は岩組みされた10畳ほどの湯壺。学校のプールのように底がブルーに塗装されている。硫化水素臭香る透明の湯はやや温めでじっくり長湯向き。両サイドにある男女の脱衣場の上には傘を被った大きなトチノキのオブジェが鎮座する。夜、露天風呂に行った時の事、電気のスイッチが分からず止むを得なく真っ暗の中、湯浴みをしていたら、な、なんと、蛍の光が湯壺の上に飛んできた。2・3匹が行ったり来たりと素朴なイルミネーションの演出に心底癒されました。
筋骨隆々としたトチノキの切り株
脱衣場の外壁に書かれた「のよさ節」。のよさ節とは夏に夜通しうたい踊られる秋山郷に伝わる歌で嫁を取ることもためらわれるほど豪雪地の厳しい秋山郷の生活をうたいあげている
露天風呂の源泉にはカマキリの卵みたいに堆積する温泉成分の石灰質が
素泊まりのため部屋で缶ビールを飲みながら夕食のパスタを茹でていたら、な、なんと、女将さんから差し入れが。こごみの胡麻和え、わらびの酢のもの、フキノトウの味噌漬けなどの山菜から焼き鳥まで… どれも美味しく贅沢な宴となり、ついついお酒の量も増えてしまいました。お心遣いに感謝です。ありがとうございました。
むかし、屋敷温泉の湯は温度が低く薪で沸かしていたそうです。その後、昭和47年に新たに温泉を掘削し、現在の高温の源泉を掘りあてたそうです。玄関脇にある露天風呂は冬場、雪に埋もれてしまうため露天の源泉は道路の融雪などに利用されるそうです。冬の厳しさを想像させます。やさしい湯と宿のもてなしが骨身に沁みました。では皆さん、健康で素敵な湯巡りを。(内湯の寝湯↑)