山形県にあるJR奥羽本線の峠駅は名のとおり奥羽本線内でも最も標高の高い場所(626m)に位置する。この辺りは日本でも指折りの豪雪地帯のためスノーシェルターにスッポリ覆われた独特な雰囲気をもつ駅だ。この峠駅、古くから電車が到着と同時に窓越しに売り子さんが大福餅を売りに来るという旅情満点な駅でもあり「峠の力餅」として有名だ。人生の峠越えということで就職、進学の合格祈願のアイテムとしても人気があるようです。
スノーシェルターに覆われた峠駅構内は卸売市場のような空間
峠駅からさらに宿の送迎車で10分ほど、細い山みちを進んだ標高850mの奥深い渓谷に湧く滑川温泉 福島屋はある。ここは福島県と山形県の県境に横たわる吾妻連峰の北麓に位置し前川上流の深山に佇む木造二階建て地下一階の一軒宿。滑川温泉の名は昔、郷士が付近の川を渡ろうとして足を滑らせすってんころりん。倒れた際、温かい石に触れ温泉を発見したのが由来する。
館内は本館、新館、自炊棟などからなり、玄関の売店、帳場のある本館は築200年以上という部分もあり木造の古き素朴さを残しながらの補修に好感がもてる
建物は古いが館内は窓から床までキラピカに磨きあげられとてもキモちE
福島屋さんには女性専用の内湯があるが、大浴場と2つの露天風呂共に基本混浴である。石畳に石造りの浴槽の歴史ある湯屋造りの大浴場(混浴)。湯気抜きが付いた天井には太い梁が渡され、薄暗い湯殿にやさしい自然光が差し湯情満点空間。湯はシジミのおすましほどの濁りがあり、消しゴムかすのような湯の花がゆらゆら~ とろみを感じる湯触りで微かに硫化水素臭を放つ石膏重曹泉だ。すぐ脇を流れる前川の豪快な瀬音が心地よく湯殿に響く。
カランなどはなく、かけ湯用に木造りの湯溜めがひとつ。大正時代建築の湯治場らしいスッ
キリとした造り
館内から建物の裏に出た先に2つの露天風呂がある。出たすぐ先に杉皮葺きの小ぶりな脱衣小屋が「檜露天風呂」だ。(女性専用時間有り、貸切可能)
川沿いに造られた檜造りの湯船は、奥に向かって狭まった5・6人サイズの台形の湯船。透明以上、白濁未満の湯は大浴場よりも硫化水素臭がクッキリ感じ、やや熱めの湯で軽く肌に泡付きがある。川側の湯船の縁をうつ伏せで抱くようにして川の流れと風をあつめてトロ~ンと浸かります~嗚呼~
檜露天風呂からさらに30mほど川の上流に向かって歩いた場所に岩組された10人サイズの湯壺が現れる。もうひとつの露天風呂、岩露天風呂だ。(女性専用時間有り)川と同化したような露天風呂で時折り山から谷に向かって吹き下ろす強風が湯面を激しく揺らす。その風は冷たく浸かっていない頭にあたるとキモちE。
渓谷の山肌には小さな残雪と満開のヤマザクラが点在し花見をしながらの優雅な湯浴みとなった
福島屋さんの夕食は鯉の甘煮、鯉の洗い、鯉の香り揚げという「鯉に恋して鯉尽くし」といったところ。鯉料理を中心に山の幸が並ぶ。これは、故意なのか…?お椀に入った鯉の甘煮はビジュアルといい、甘さといい、かなりパンチが効いている。
部屋を出て館内を歩くと出くわすのが修行僧如く膝をつき床を磨くスタッフ姿だ。あまりのストイックさに頭が下がる。といってユーモアがないわけではない。スタッフのものと思われる決して履きたくないサンダルを発見。こういうセンス、好きです。
翌朝、宿の周りを散策。「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」と叫んでいるかのように顔を出したばっけ(ふきのとう)発見。強い生命力を感じます。春の東北、いいですねぇ、夕飯にはこごみ、、朝食にはこしあぶら…シャキシャキ感がたまりません。では皆さん、健康で素敵な湯巡りを。(訪2017年5月)