日本百名山にあげられる吾妻山(あずまやま)は山形県と福島県の県境に沿って東西に横たわる2000m級の山脈。その山脈の東麓、磐梯吾妻スカイラインの入口周辺(標高750m)に湧く高湯温泉は湯量豊富な江戸時代から続く古湯だ。かつては信夫高湯と呼ばれ、山形の最上高湯(蔵王温泉)、白布高湯(白布温泉)とともに「奥州三高湯」とうたわれた名湯。標高の高い場所に湧く温泉なので高湯と呼ばれるそうです。
高湯温泉は緩やかな坂道沿いに10軒ほどの宿が点在。飲食店などはほとんどなく歓楽的要素はゼロ。観光地化されず湯治場の伝統を守り続けていると思われる。そんな温泉地の中ほどに建つ「吾妻屋」は創業140年を誇る老舗宿。
現在では近代的な佇まいとなったが、ロビーのギャラリーには斉藤茂吉が宿泊した際に詠んだ歌や勝海舟などの著名人の書などの展示品が並ぶ
吾妻屋さんの内風呂は宿泊棟とは別棟にあり、最近リニューアルされた感じでとてもきれいな浴室棟。その通路の壁には「なんということでしょう…」
壁紙の上から直に描かれた満開のヤマザクラとドウダンツツジが織りなす二重奏。今にも艶やかな女形に扮した梅沢富美男が「夢芝居」の舞を魅せるかのような空間だ
「古霞」の名前がつく内風呂は、大木の湯口から豪快に湯が注がれ、御影石の浴槽には青みがかった白濁の湯が張る。浴槽手前の角には大きな石が配され、どことなく庭園をイメージしたような硫化水素臭ムンムンの湯殿だ。滑らかな肌触りの湯は酸性の硫黄泉。酸性特有の肌を刺すような感覚はなく適温よりやや温めでとってもグーです。湯をかき混ぜると湯底にたまった粉状の白い湯花が湯中を舞い、見る見るミルキーホワイトに変色。それは男と女が互いにあやつりつられるような舞いを魅せる。内風呂には男湯、女湯、貸切(フロント予約制)の3つ浴場があり、貸切は男女の内風呂をひとまわり小さくした湯殿だが、貸切にしては贅沢な広さがある。
浴室棟にある湯花小屋
浴室棟からは外履きに履き替え、20mほどのぼった場所にある憩い処「山露庵」。入母屋造りのイカした佇まい。終の棲家はこんな小ぶりな平屋のお家で静かに暮らせたらなーなんて想像を巡らせる
中は休憩場所として利用ができ、アジア風な透かし彫りの入った家具や調度品が並ぶ。山露庵の向いには宿自慢の露天風呂「風楽」が、そこからさらに50mほどのぼった場所に外風呂「山翠」がある。次回、露天風呂「風楽」と外風呂「山翠」をお送りします。では皆さん、健康で素敵な湯巡りを。