前項まで3項にわたって那須湯本温泉をお送りしました。今回はその那須湯本温泉よりさらに車で20分ほどの奥那須の一軒宿、北温泉をお送りします。北温泉は茶臼岳をはじめとする雄大な那須連山を背景に山間の谷に湧く温泉。古い木造棟が連なる宿で、最も古いものでは江戸後期の安政年間に建てられたという。その後、明治、昭和と増改築がなされた館内の廊下はまるで迷路のようだ。1200年前、大天狗が発見したという開湯伝説が残る北温泉の内湯「天狗の湯」は有名だ。
ここは最寄りのバス停からも徒歩30分ほどかかり、車でも最寄りの駐車場から400mほど山道を歩かないといけないため宿の前に車が停まっていないのが秘湯感をぐっとアップする。
玄関にある現役バリバリの薪ストーブ
昼間でもほの暗い館内。歩くとミシミシ床鳴りする廊下には無造作に古民具などが飾られていたり…、
何故か「戦勝」と書かれた提灯がさがる湯前様の参道の入口があったり…、その隣には三体の仏像が安置されていたりする。なんともおどろおどろしい感じは否めない。進む先にアリス・クーパーが佇んでいても何ら不思議はないのだ。そんな事、想像しながら開湯の発祥となった天狗の湯に向う。
ドデカイ天狗の面が壁三面に掛かる唯一無二の湯殿。ネーミングど直球なビジュアルだ。ぼくは2008年の9月、那須連山の中腹に湧く三斗小屋温泉「煙草屋旅館」に宿泊後、北温泉に下山し、初めてこの天狗の湯を見た時の衝撃は、小学校5・6年の時に初めて食べた化学の集大成「ハッピーターン」を食べたとき以来の衝撃だった。
7・8人サイズのコンクリート造りの浴槽に窓外のすぐ脇の断崖の壁から湧き出す湯を湯殿の壁をぶち抜く竹の樋を通して勢いよく注がれる。すまし汁ほどの濁り湯は鉄味がクッキリの単純泉。中性の湯で肌によく馴染む。浴槽から床にかけて湯の鉄分のせいで深い錆色を成す。天狗の湯から外に抜けると小ぶりな「家族風呂」と「打たせ湯」もある。
湯量豊富な注入量でキモちE。子宝の湯として歴史もある。
(天狗の湯8:30~17:30は男性専用。それ以外は混浴)
露天風呂「河原の湯」は昭和築の棟の先にある。人工物バリバリの余笹川に造られた砂防5段の滝を愛でながらの湯浴みだ。
玄関前にある湯小屋には「相の湯」(男女別内湯)がある。小ぶりなコンクリート造りの浴槽があり天狗の湯同様浴槽から床にかけて鉄分のせいで飴色に変色している。相の湯の脱衣場は北温泉もうひとつの名物、「温泉プール」の脱衣場でもある。
宿の手前にある釣り堀のような温泉プールは15m×10mのサイズと手前の滑り台のあるプールは子供用に浅くなっている。3月末の訪問であったが、この日はかるく雪模様。
広すぎて腰を下ろすには落ち着かないのでプール内を歩き始めた。誰もいないプールの真ん中で顔面に降る雪を浴びながら気づけば「♪こなーっゆきぃー」と、そのフレーズしか知らないレミオロメンの歌をリピートしていた。恐らく傍から見ると要注意人物にしか見えなかっただろう
湯浴み後、帳場前のソファで休憩中すり寄ってきた宿の愛猫モモちゃん。べっぴんさんです
天狗の湯を筆頭にこの宿が醸し出すミステリアスな世界観や鄙び、そして程よいゴチャゴチャ感が妙な居心地のよさを生んでいる。では皆さん、健康で素敵な湯巡りを。