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執筆者の写真きい

老松温泉 喜楽旅館(栃木県)p.64


栃木県の北端の那須町は東京から180kmの距離にあり東京と仙台のほぼ中間に位置し、町の北西部には茶臼岳をはじめとする雄大な那須連山がそびえ立つ。山腹から山麓にかけ温泉地が点在し、これらの温泉地を称して那須温泉郷と呼ぶ。その中でも最も歴史が古く中心となるのが那須湯本温泉だ。遡ること飛鳥時代、狩人が白鹿を射損じ追い続けたところ矢傷を受けた鹿が温泉の湧き口に浸かっていたのを発見したというのが開湯の起源となったようです。古来から源泉は「鹿の湯」と名付けられ、現在でも賑わいをみせる共同浴場「元湯 鹿の湯」にはまさにこの湯が注がれている。


その「元湯 鹿の湯」の脇を流れる川の400mほどの下流に雑草が生い茂った舗装されていない道の両脇に70年続く湯治宿、老松温泉 喜楽旅館がある。道を挟んで左が受付を兼ねた母屋、右が浴場のある宿泊棟になっている。このアングルから徐々にズームアウトしていくと…


さらにズームアウトすると… 堂々たる木造半壊造りの宿泊棟の全貌が。どこか世の中から見放されたような佇まいではあるが、現在でも日帰り入浴を受け付けている。手前に茂る枯れすすきがさくらと一郎のあのヒット曲を思い起こす。



左側でご主人に500円を支払い、川口 浩になった気分で半壊した右側へ潜入。中に入ると趣きある木造り螺旋階段があり、そこを下りて薄暗い廊下を進んだ先に浴場がある


薄暗い板張りの湯殿に奥の窓から外光が湯気を通り、柔らかい光となって差し込んでいる。2つに区切られた湯船(各3人サイズ)の奥の片方だけに湯が張っている。粉状の黒い湯花が舞う灰色がかった白濁の湯は外観の強いビジュアルに反し、滑らかであたりがやさしい。400mほど上流の鹿の湯源泉は65℃から80℃近い酸性の高温泉に対し、こちらの源泉は25℃から30℃ほどの鉱泉なので加温され湯船に注がれる。湯口には2本の鉄パイプがあり1本からはアツアツに加温された源泉が常時注がれ、湯温を調節できるようにもう1本からは25℃ほどの源泉のまま出るようになっている。


永ちゃんのマイクスタンドばりに白テープぐるぐる巻きの管から加温された源泉が注がれる。こちらの湯は飲泉もできやさしい酸味と仄かな玉子臭があり、硫黄泉にしては口当たりがいい。

先客の常連の親爺さんはアトピーもちで湯に浸かりながら洗い場の蛇口から持ち帰り用ポリタンクに源泉を汲んでいた。これを自宅での湯上りに風呂場で500mlのペットボトル1本分、頭から全身にかけると肌の調子がすこぶるイイと言っていた。


浴場前の抜け落ちた廊下の天井。以前、3年ほど前に来た時よりも確実に崩壊が進んでいる。何が起きても不思議はないので訪れる方は自己責任原則で


喜楽旅館さんの50m先にある御影石に刻まれた案内。まさに珍湯中の珍湯。半壊状態の浮世離れした佇まいはシュールな絵画を観ているようで、好きな者にとっては愛される理由のひとつなのだと思う。見すぼらしい闇の中に輝く湯は奥深い安心感とぬくもりある一湯でした。では皆さん、健康で素敵な湯巡りを。

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