前項の「奈良田の里温泉」のある小高い丘を早川沿いに4・5分下った場所にある白根館は奈良田温泉唯一の宿。奈良田温泉は山梨県西部の早川町最北の集落で、ダム建設でできた奈良田湖畔に湧く。奈良時代の女帝、孝謙天皇がこの地の湯に浸かり病を快癒されたという伝承が残り効能の高さから「七不思議の湯」とも呼ばれている。
白根館はいで湯のみならず南アルプスの恩恵を集めた宿で猟師でもあるご主人が自ら宿の食材を確保。自然が育んだ滋味豊かな味を堪能することができる。
ロビーには深山ならではの子熊の剥製が迎えてくれる
白根館さんの浴場は内湯(男女各1)と露天風呂が2つある。時間を区切って男女交代制になっていて「七不思議の湯」という名の源泉がそれぞれの湯壺に注がれる。内湯は男女共に檜造り湯殿で床には石目が美しい石板が敷かれている。湯は妖艶な女体をイメージさせる丸太の下腹部あたりからダラダラと2つに区切られた湯船に注がれている。湯は湯口側が熱めですまし汁ほどの薄っすら濁りがあり、クッキリ玉子臭があるアルカリ性の食塩硫黄泉。小さな黒い湯花が舞う湯にはとろみがありヌルヌルとした肌触りがたまらなくキモちE。
トラ目が美しいレスポールギターのボディのような床石
露天風呂のひとつ「木造りの露天風呂」は7・8人サイズの丸太で組まれた湯船。丸太の縁に首裏をあててダラーンと手足を伸ばし南アルプスからのそよ風と共に五感で感じる湯浴み 嗚呼。浴後のポカポカ持続と生まれ変わったような肌サラ感はバツグン。
湯口からは観音様が見守ってくれる
七不思議の湯は時を追って色が変わるのが特徴で透明から緑や白に変身する。翌朝にはバスクリンの「森の香り」カラーに変身していた。効能高い湯は飲泉も可能で口にふくむと、ゆで卵の表面に塩を付けてカプっと食べた時のあの口の中で広がるフレーバーと同じなのだ。飲むことで糖尿、萎縮性胃炎などにも効果があるとか。
山人(やまんど)料理と題された白根館さんの夕食。手造りの蒟蒻や生湯葉のお刺身、宿の男衆が鉄砲かついで獲ってきた鹿肉をはじめ、奈良田の郷土料理、揚げ蕎麦がきや山菜の煮物など労力と手間のかかった料理が並ぶ。山の恵みに感謝して「いたーだきますっ」鍋にサッとくぐらせた鹿肉はサッパリ淡白なお味でグー。どれも素材のうま味を生かしたやさしい味付けで箸が止まらない。
軽く燻された川魚はぽってりとした食感と口の中に広がるスモーキーな香りにお酒も進みます
翌朝はキビといっしょに炊き上げたキビ飯。夕・朝で出される山梨の武川米はふっくら、しっとりの美味しいご飯でした
朝食後、もう一つの露天「石造りの露天風呂」で温泉好きな親爺さんたちと話に花が咲いた。ふたりの背中から湯の良さが伝わってくるフォトジェニックな一枚。浴感の柔軟さや湯触り、仄かにかおる硫黄臭、さらに浴後の保温効果や肌の仕上り感、白根館さんの湯はほしいもの全てがバランスよく配合されたような泉質のように思えます。日本で最も人口の少ない早川町には日本で最も身体が悦ぶ湯が湧いています。では皆さん、健康で素敵な湯巡りを。