山梨県の西部に位置し、日本で最も人口の少ない町、早川町。面積の96%は山林が占め、スーパーやコンビニは無く、さらに病院や銀行、高校も無い。まさに吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」の歌詞が脳裏を去来する町なのだ。しかし、この早川町には国の天然記念物、「新倉(あらくら)断層」がある。この断層は「糸魚川-静岡構造線」といわれる延長250kmに及ぶ大断層で、この断層を境に西日本と東日本の地質に大きな違いがある。早川町もこの断層が縦に走り、早川町新倉の内河内川(うちこうちがわ)の左岸には西側の古い断層が東側の新しい断層にのし上がった「逆断層」という珍しい断層が露出した場所がある。この断層より東縁にはフォッサマグナの地溝が形成されており地殻活動盛んな土地の早川町にはいで湯が点在する。
西山温泉、元湯 蓬莱館はその新倉断層からさらに県道、南アルプス公園線を進んだ先にある1300年もの歴史ある温泉地。西山温泉にはギネス認定の「世界最古の湯宿」慶雲館と元湯 蓬莱館の2軒の湯宿がある。慶雲館をエアロスミスのようなスタジアム級ロックバンドに例えるなら元湯 蓬莱館はイギーポップといったところ。小高い場所にひっそり佇む昭和鉄筋造りの外観。
ロビーにはかわいいモザイク画の福助が迎えてくれる。他にも長年のお客からの贈答品が多数並ぶ
蓬莱館さんの浴場(混浴)へはロビー奥の階段を上り屋外に出るとガラッと趣きが変わる木造3階建て明治築の宿泊棟にでる
浴場はこの文化財級の佇まいと廃虚感が紙一重な建物に入った先にある
あかり取りに二面にドでかく窓がとられた開放感ある清々しい湯殿。暖色系のタイル貼りで真ん中に木造りの20人サイズの湯船が鎮座。湯船の中はお弁当箱のように3つに区切られており、ご飯を入れる一番大きな区画とおかずを入れる中くらいの区画、そしてお新香やお豆さんなどを入れる小さな区画に分かれている。湯はお新香・お豆の部に注がれているためそこの湯温が一番高く、おかず部、ご飯部の順に湯温が低くなる。しかし一番高い湯温でも38℃前後のぬるめの湯加減なのでご飯部ではかなりヒンヤリ。
年季の入った木造りの湯船
湯は無色透明で仄かに玉子臭のある湯はサラサラとした肌触り。やさしい浴感の湯に個性的な湯の花が舞う。熟したマンゴーを握りつぶした果肉のような黄金色の湯花なのだ。思わず手に取り見たくなる。飲泉も可能な湯は飲むことで胃腸病、糖尿病などに効果があるようです。
観賞用にたっぷり採取し瓶詰めされた湯花が脱衣場にあった
ぬるめの湯にゆっくり1時間ほど湯浴みをした。湯船から上がるとさすがに身体が寒いが、サッと服を着るとジワジワポカポカしてくる。日帰り入浴にも関わらず色々と話して下さったご主人の気持ちのやさしさもポッカポカ。300mほどの山の上から湧き出たままの源泉がそのまま引かれているため夏季と冬季では若干の温度差があるようです。黄金色の湯花といい、明治築の渋い宿泊棟といい、個性にとんだビジュアルの強さはまさにイギーポップ級でした。では皆さん、健康で素敵な湯巡りを。