前項の石部温泉いでゆ荘から海沿いの国道136号をさらに車5分ほど南下すると、同じ松崎町の三浦地区(さんぽちく 岩地、石部、雲見)の雲見温泉に到着する。山と海に囲まれた静かな漁村兼温泉地。ダイビングスポットとしても有名で、おてんとさまがゴキゲンな時は駿河湾の正面に富士の姿が望める。雲見温泉には漁師が営む多くの民宿が密集し、魚の宝庫といわれる雲見の海の幸が宴を彩る。
その中のひとつ、高見家さんも料理と温泉自慢の民宿で、曲り屋の佇まいはとても民宿とは思えない風貌
小さな雲見漁港
高見家さんには男女内湯(各1)と貸し切りの露天風呂がある。白壁に伊豆石を組んだ2人サイズの小さな湯壺の湯殿。石部の温泉供給会社から4つの源泉の混合泉が引湯されガッチリ強めの食塩泉が注がれる。高見家さんはこの源泉を毎分15ℓ引湯し、男湯、女湯、露天の3つに各、毎分5ℓずつを配湯している。そのため無駄に大きな湯壺は造らず身の丈に合ったかけ流しの湯使いにとても好感がもてる。海水のような薄っすらと濁りある湯は強い浴感でよく温まり浴後は保湿要らず。湯温は適温で季節によって熱交換器で温度調節をしている拘りよう。
宿の玄関先にある貸し切りの露天風呂はウッディな造りで中央に直径140㎝ほどの丸型石造りの湯壺が鎮座。湯は湯底の中央からこんこんと注がれ、湯に身を沈めると豪快にオーバーフローする。小さな湯壺ため常に新鮮な湯で満たされ、よそ様のデリケートゾーンのヘアーなんぞ浮く余地もない。四方壁に囲われ開放感はないが、夜はアンニュイな照明の灯りがムーディな空間に変身。夜空の星を眺めながらの湯浴みができる。
料理人でもある高見家さんのご主人は自ら漁に出て獲れたての新鮮な海の幸をさばく。夕食は海の幸が豪快に並び「舌鼓を打つ」という表現よりも「ガブガブ食らう」という表現がふさわしいほどの量が並ぶのだ。溢れんばかりの船盛りや伊勢海老、サザエなど美しく盛り付けられとても民宿の料理とは思えないほど。
伊豆の魚を伊豆のワサビで食す
蟹には伊豆の夏みかんが添えられる。蟹の身に軽く絞って食すと夏みかんの爽快な甘みと酸味が蟹の旨みをより立体的にする
お酒を注文するとご主人お手製のボラのカラスミが付く。仄かに感じるワイルドな磯の香りのカラスミと芳醇な日本酒の香りがお口の中でマリアージュ。嗚呼、し~や~わ~せ~
朝食にはアジの開きをはじめ、ぷっくりと大きなシイタケ、昨夜の伊勢海老の頭が丸ごと入った旨み出まくりの味噌汁、ボラの酢味噌和えなどが並ぶ。一般的に臭いと思われがちなボラだが、薄めた酢に漬け込むことで臭みが消え、ぽってりとした食感でとても美味い。カラスミ(卵)だけではなく身まで美味しく食すという料理人の為せる業。
料理と湯へのこだわりは勿論のこと、清潔感のある館内随所に花が飾られるなど、微に入り細を穿った客への心遣いを感じる高見家さんにリピーターが多いのは頷ける。では皆さん、健康で素敵な湯巡りを。
(訪2016年11月)