前項で紹介した湯田川温泉は古くは竹下夢二、斎藤茂吉といった文化人も湯田川に滞在し、創作にふけったそうです。こぢんまりとした宿が並ぶ小さな温泉地に13代続く「甚内旅館」は、湯田川温泉のバス停前に建つ木造3階建ての安らぎのピーチカラー。裏には共同浴場の「田の湯」もある。
中から「いらっしゃーませーっ!」と玄関に勢いよく飛び出してきた3歳ほどの女の子がスリッパを差し出してくれた。しかし、ぼくの足元にスリッパのつま先側を向けて差し出したので一瞬履けずに躊躇していると、後から出てきた赤ん坊を抱いた若女将が「反対でしょっ」というと女の子はスリッパを取ってつま先側はそのままで左右を置き換えたので大爆笑。あまりの可愛さに思わずムギューとしたくなった。子供はこれくらいの年齢がいちばんカワイイんだなー。
部屋に用意されていたお茶菓子。なんとも遊び心の効いた「ひょっとこ饅頭」
そんなアットホームな甚内旅館さんには内湯と家族風呂の二つがある。内湯は白壁にインディゴカラーの落ち着いたタイル貼りの湯殿。2・3人サイズの半楕円型の小ぶりな浴槽ではあるが、湯口からの湯量に対して適した大きさで湯を放流しているのに好感がもてる。お酒は温めの燗がイイ、湯舟は小ぶりなほうがイイのだ。なので浴槽内は常時、新鮮な湯で満たされ湯温もやさしい。柔らかい浴感はほんのり鉱物臭香る硫酸塩泉。窓外には坪庭が見られる落ち着いた空間。
館内の2階と3階の階段おどりばに入口がある家族風呂。小ぶりな湯殿には安らぎピーチカラーのタイルと硝子ブロックをあしらわれ半畳ほどの浴槽が。湯口は共同浴場、田の湯と同様、ライオンさん。
黒いライオンの鼻の周りにゴッテリ湯の析出物がこびり付き、ライオンというよりも田川水泡の「のらくろ」状態。大人ふたりで浸かるにはちょっと窮屈な浴槽だが、ひとりで浸かると包まれるようなフィット感がありシックリくる。
甚内旅館さんの料理は山形の郷土料理、だし(夏野菜や香味野菜を細かく刻んで醤油であえたもの)をはじめツルムラサキや香りがイイだだちゃ豆、近海の旬の魚が料理されとっても美味しゅうございました。朝食は15品もの色とりどりの小鉢が並ぶ「お手しほ料理」とよばれるもの。栄養バランスのとれた目にも舌にもうれしい。
野に咲く花のような朝食
宿泊した夜ははちょうど湯田川の盆踊りが催され、ぼくも小さな温泉街の小さな盆踊りの輪の中に入って日本人らしい夏休みを過ごす事が出来ました。では皆さん、健康で素敵な湯巡りを。(訪2016年8月)
今年はこれで最後の更新とします。今年も一年、お付き合い頂きありがとうございました。時節柄、健康には一段とご留意のほどMerry Christmas! そしてよいお年をお迎えください。