前項に引き続き、西山温泉の湯巡りをお送りします。中の湯さんから2・3分、登り坂を上がった場所にあるのが老沢温泉旅館。西山温泉の歴史は古く古事記の時代にまでさかのぼり、神の隠れ湯だったという温泉信仰を残す。そんな「神の隠れ湯」感を強く残すのが老沢温泉旅館さん。こちらの湯は昔から“痰切りの湯”と呼ばれ喘息などの呼吸器系に効くといわれてきた。
木造2階建ての趣きある外観。玄関入って左手から階段をグーッと下ると浴舎に着く。一畳ほどのコンクリート造りの浴槽がリズムよく3つ並び、奥には幟(のぼり)が下がる温泉神社が鎮座する。温泉神社が宿の館内や外に祀られているのは目にしたことはあるが湯殿の中に神社があるのは大変珍しい。えびの天ぷらをおむすびの中に包み込んだ名古屋人的発想なのか?
薄暗く物音ひとつしない湯殿に高窓から外光が差し込むさまはまるで後光がさすかのようにここが神の領域だと感じる。湯に浸かる前にお参りしようとするが、神様の前でイチモツをぶらつかせながらの二礼二拍手一礼もなんとなく恥ずかしいというか失礼というか…右手で隠しながらだと二拍手ができないし、イチモツをしまい込むように股に挟んでもお尻の下から顔をのぞかしていては意味がない。ここは神の領域だ、どの角度からもみられているのだ。これが絶倫のシンボル“金精大明神”が祀られているならば何の躊躇もないのだが…結局、止むを得なくぶらつかせながら湯の恵みに感謝しお参りさせていただきました。
3つ並ぶ浴槽の湯は浴槽内が黒っぽいため湯色が黒く見えるがシジミのおすまし程度。塩ビ管の湯口2カ所あり湯路を流れ各浴槽に配湯されている。湯は硫黄含んだ食塩泉で白い湯花と黒っぽい湯花が舞いとろりとした湯触りがある。中央と奥の浴槽は仄かにアスファルトのような油臭を感じた。各浴槽の注ぎ口には石が置かれておりその石の置く場所や角度で湯量調節し湯温の上げ下げをチューニングするというアナログ感がなんとも愛おしい。神聖なる湯殿はありがたさと気恥ずかしさが表裏一体をなす一湯であった。
下の湯
西山温泉で宿泊した滝の湯さんの裏を回り込むように少し歩いた場所に下の湯がある。以前は旅館営業であったが今は日帰り入浴のみの営業。吊り橋ごしの佇まいがとても絵になる安らぎの風景。普通の民家のような佇まいで玄関から声をかけようとするとおば様たちがこたつに入りお茶会中だったが入浴をお願いすると快く“どうぞ”と。
湯小屋造りの湯殿で床は気持ちのいい石畳。真ん中で区切られた4人サイズの檜の湯船で天井にはスコーンと開いた湯気抜きが付き、窓からは西日がガッツリと差し込む明るく清潔な湯殿。
湯が高温のため塩ビ管の湯口からいったん湯冷ましのため木の箱に注がれ、区切られた片方の湯船に注がれる。しかし湯が注がれている側の湯船は50℃はあるのでとても浸かれない。反対側に移動するのだがこちらもかなりの熱さ。“うーうー”と悶えながらの湯浴みとなる。
パンチの効いた湯温の食塩泉だが飲泉用のコップで飲むとほどよく塩味がきいた芳醇なコクを感じる素晴らしい味だった。山間にひっそりと佇む西山温泉の湯は心身共にほんのりしみる優しい湯浴みだった。では皆さん、健康で素敵な湯巡りを。
(老沢温泉旅館さん、下の湯さん共に混浴の湯殿です。女性への配慮、マナーを大切に。)