前項でも紹介した湯量豊富な伊東温泉。伊東温泉の湯巡りでポピュラーなのは「七福神の湯」。街に点在する9つもの共同浴場に観光客も低料金で利用できる。他には昭和3年の創業から約70年続いた温泉宿、「東海館」がある。松川沿いに佇む大正から昭和にかけての温泉宿の情緒を残す建物で今では伊東の文化施設として生まれ変わり、週末や祝日には日帰り入浴もできる。その東海館のある松川を挟んだ対岸あたりに隠れるように佇むのが共同浴場の「源氏湯」。
こちらの浴場は地域の組合員6人ほどで運営されている「地域人の地域人による地域人のための浴場」なのだが一般客も利用が可能。が、しかし営業時間が18時半から1時間弱と極端に短いのだ。そのためかガイド本や観光案内所などの日帰り入浴案内にも記載されないインディーズ系共同浴場なのだ。
この日は近くの老舗宿に宿泊。夕食を19時と少し遅めにしてもらい18時15分ぐらいに源氏湯に出掛けた。到着時、暖簾はまだかかってなく中に人の気配はあったが鍵がかけられていて入れない。入口で待っていると地元の人らしき男性が近づいてきて「まだ開いてない?」と声をかけてきたので、ぼくは「はい、人はいるみたいですど…」すると中から親爺さんが出てきて「どうぞぉ」と。この親爺さんは組合長なのか、この日の当番なのか定かでないが浴場の掃除を兼ね、先にひとっ風呂浴びてたようだ。親爺さんはそのまま番台に座って18時20分ごろオープン。番台で200円を払い、レトロな脱衣棚が備えられた脱衣場でズボンを下ろす。
ブルー系と白と赤っぽいタイル貼のフランス国旗をイメージさせるトリコロールカラーのオサレな浴槽。湯殿にはカランはなく、上がり湯用の源泉槽が備えられた至ってシンプルなやつ。浴槽に湯は注がれているものの半分ほどしか溜まってない状態で地元の親爺さんたちは湯に浸かるのだ。もちろん普通の姿勢で浸かると肩まで浸かれないのでみんな腰をずらした低い姿勢になる。ぼくと2人の地元の親爺さんでアメリカンタイプのバイクにまたがるような姿勢で並んで浸かった。頭の中でステッペンウルフのあの名曲がよぎりながらも会話が弾む。この日は女湯からは2・3人のおばさまたちの会話が聞こえ、男湯には3人。そう、この浴場、全員が湯から上がれば営業終了なのだ。なので営業に1時間もかからない。そう思うと、毎日この少ない人数と少ない時間で湯をダブダブにオーバーフロー状態での湯使いは勿体無いと感じる。さらに電気代やボイラーの維持費もかかる。少しでも永く存続させるための節減であろう。湯は適温よりやや温めで仄かに鉱物臭を感じる湯。親爺さんの話では昔はもっと塩味があったらしいとのこと。ぼくは湯口とは反対側に浸かっていたため湯口側の親爺さんが注がれたばかりの熱い湯をぼくの方に手でかいて熱い湯を運んでくれた。おもいやりと共に運ばれる湯は優しい気持ちになるナイスな一湯だった。 では皆さん、健康で素敵な湯巡りを。
(訪2016年1月)