静岡県で一番、全国有数の豊富な湧出量を誇る湯の街、伊東温泉。その名は伊豆の東にあるということからのようだ。JR伊東駅から5分ほどの猪戸(ししど)という静かな住宅地に溶け込むように佇む梅屋旅館さん。一般住宅のような外観のため、看板がなければ通り過ぎてしまうほどだ。訪れた日、屋号のとおり玄関先の梅の木には花がいくつか付き始めていた。
梅屋旅館さんにはふたつの内湯があり、手前側にある湯殿は、「塩温泉」というこちらの宿の自家源泉が堪能できる。小ぢんまりとしたブルーのタイルが印象的な湯殿。2人サイズ浴槽は一般家庭の浴槽よりやや大きめのサイズ。蛇口から熱めの源泉が注がれ、もう一つの蛇口にはホースが付けられた源泉で浴槽外の排水口に突っ込まれている。注がれている湯は45度前後の「山の湯」という伊東温泉の配湯された源泉。もう一つのホースの付いた湯が塩湯というこちらの宿の自家源泉だ。
塩湯は35度前後のぬる湯なので浴槽に入れっぱなしだと浴槽内が温くなってしまうので、基本、浴槽の外に垂れ流している。浴槽内の熱めの源泉をぬるめの源泉で好みの湯加減に調節するという温泉好きにはなんとも贅沢な湯浴みが堪能できる。無類の酒好きがウイスキーや焼酎のロックを飲みながらチェイサー代わりにビールを飲むようなもの。勢いよくホースの先から出る塩湯を舐めるとあまりのしょっぱさにロバート・デニーロのように口がへの字にゆがむ。常時浴槽にかけ流されている「山の湯」は無色透明でさらりとした浴感、仄かに鉱物臭を感じる。その浴槽の湯に塩湯のホースを入れるとホースの先から出る湯の色の方が俄然濃く、海水のような笹濁りのような色を出す。湯温はゆっくりと適温になっていくと共にふたつの源泉が渾然一体となり毛穴からジリジリと体内に染み入るような浴感。 嗚呼…。
奥にあるもう一つの浴場は、昭和レトロなタイル貼の広めの湯殿。3・4人サイズの浴槽には「山の湯」源泉がかけ流されている。宿の女将さんに教えてもらったのだが、この湯殿、天井から温泉の析出物がツララ状に形成されているのに驚く。温泉好きでもあまり目にすることのない珍しい現象だ。
緩やかなアーチを描いたM字型の天井でM字のくぼみに蒸気が集まる形状のためこのような析出物ができると思われる。
日帰り入浴にもかかわらず、湯上りには冷たいお水を出して頂き、女将さんの優しい口調に甘え、つい長居してしまいました。宿の玄関に飾ってあった、おむすび好きで有名な画家の絵。生前こちらの宿に宿泊されたとかしないとか…。サインペンで描かれたとても可愛いタッチのアシナガ蜂にほのぼの。伊東に来る楽しみがひとつ増えました。
では皆さん、健康で素敵な湯巡りを。(訪2016年1月)