前項に引き続き亀屋旅館さんをお送りします。
昭和で時が止まったかのような館内には赤いデコラ貼りのカウンターにミラーボールがさがるスナックがある(現在営業はしていませんが)。梓みちよの「二人でお酒を」あたりが流れてきそうな色気ムンムンの空間は、まさに妖しき昭和遺産でなのです。
昭和の漫画家 「のらくろ」の田川水泡も贔屓にしていたそうです。当時、宿のご主人 八亀さんは小さかったのであまり覚えていないそうですが、よく遊んでもらったそうです。
亀屋さんの大浴場(男湯)は昭和20年~30年頃に造られた意匠の凝ったタイル張りの浴室であります(前出イラスト)。3・4人サイズの浴槽はサイケデリックな風情。入口にはローマ様式を意識した5本の柱が立ちはだかります。
壁は床から天井にかけて小粒なグリーンのタイルで淡いグラデーションが施されています。そして石玉を滑り落ちるように注がれるクリアな湯は、鉱物臭香る弱食塩泉でしっとりよくあたたまります。
出隅の角は丸くアール状に施され、往時のタイル職人のこだわりと湯浴み客への配慮を感じます。
この浴室70年ほどが経過しているもののタイルがほぼ欠けずに残っているというのもスバラシイ。洗い場の石鹸置きなんかにもキュンとさせられます。
壁も柱もグラデーション。大正ロマン感じるステキな浴室であります。前項で紹介した部屋風呂よりも浴槽内の湯量が俄然多いため、あたたまる速さが違います。
亀屋さんの夕食は大浴場のインパクトにも引けを取らないボリュームであります。
先ずはチンカチンカのルービーで乾杯。
まぐろ、金目、ホウボウ、サザエ、甘エビなど盛り沢山な舟盛りです(これで二人前)。どれも新鮮で美味しいです。
しっとりと甘みの強い茹でガニ。
そして血の滴り落ちそうな紅い牛肉は、しゃぶしゃぶ用。枚数も多いが一枚もでかい。
舟盛りとしゃぶしゃぶ鍋でほぼほぼお腹いっぱいになってしまうほど。
手羽先と野菜の炊き合わせ、さらに天ぷらと続きます。一品一品しっかりとした量なので、後半はさながら大食い選手権の決勝戦。この時ほど20代の胃袋が欲しいと思ったことはなかったです。
翌朝はうれしいあさりの味噌汁です。鯵の干物、湯豆腐、小松菜のしらす和え、納豆というスタンダードの和朝食です。
ふっくら焼かれた玉子焼きも。夕・朝食とも大変美味しゅうございました。昭和レトロな鄙びと贅沢な湯使い、そして盛り沢山な美味しい料理という三拍子揃った亀屋旅館さんはツウ好みのための湯宿であります。
チェックアウト後、湯河原を散策。落差15mの不動滝は小ぢんまりした趣きの癒しのスポット。滝の左側には身代り不動尊、右側には大黒尊が祀られています。
散策中、気になる建物を発見。上部の鏝絵の装飾やモザイクタイルがイカした佇まいであります。
窓越しに中を覗いてみると木彫りの熊やスズメバチの巣、そしてなぜか僕の住む近所のお寺さん「豪徳寺」の招き猫がいるではないですか。
窓越しにひと通り見回して、その場から離れようと、ふと上を見上げると何かと目が合ったのです。
めっちゃ見てるじゃないですか。まさかの招き猫からのリアル猫。あまりの可愛さに暫し見つめ合っておりました。では皆さん、健康で素敵な湯巡りを。(訪2021年3月)
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