島根県のほぼ中央、国立公園三瓶山(さんべさん)の周辺には個性に富んだ小さな温泉地が点在し、これらを総称して三瓶温泉郷と呼ぶ。湯抱(ゆがかえ)温泉もそのうちの一つで、三瓶山の西南麓、美郷地区に位置しJR大田市駅からバスで40分ほどの場所にある。商店、食事処など一切なく時が止まったかのような鄙びた温泉地。
後継者不足などの理由で今では宿が2・3軒程。そんな静かな温泉地の一角にあるのが大正5年創業のイカした入母屋造りの宿「中村旅館」さんだ。家族経営のアットホームな宿で今日では1泊、1・2組しかお客をとらないようです。
中村旅館さんには内湯が一つしかないので利用時は貸し切りとなる。2面に取られた窓からやんわりと外光が入る湯殿に小ぶりなひょうたん型の浴槽が一つ。浴槽から床にかけて湯の析出物でつくり出された千枚田のような造形美に驚愕。そのぶっちぎりのビジュアルに思わず見入ってしまう。湯は黄褐色でカルシウムや鉄分を含んだ食塩泉。源泉が30℃と低いため湯を沸かして利用。浴槽内の柵がかかる箇所が釡炊きになっていて、まきを使って沸かした湯は丸みのある優しい肌触り。この釜はこちらの女将さんのお父様のお手製だそうです。ぬるめに加温されているため、湯浴み中の発汗はさほどではないが浴後、浴衣を着て20分ほど経つと全身がじんわりと熱くなり長時間ポカポカ感が持続する。さらにこちらの湯は最近話題の美人の湯と呼ばれるメタケイ酸(温泉に含まれる天然保湿成分)の含有量が非常に高く普通でも50㎎以上で美肌の湯、100㎎以上で美肌形成の湯と言うそうですがこちらの湯はなんと181㎎とぶっちぎりの含有量。美人はより美しく、そうでない人もそれなりになるというわけだ。
排水口あたり析出物。まるで鍾乳洞のなかいるかのような造形美。排水口もいずれ塞がってしまいそう。析出物で足裏を切らないようにマットが敷かれている。
湯面には湯の花が浮いているのだが既にカルシウム成分が結晶化し指で潰すとパリパリと割れるような感触がある。女将さんの話では源泉を沸かす事で結晶化するという。湯守の苦労に頭が下がります。
湯抱温泉という名にふさわしい、湯に後ろから抱かれているかのような心休まる浴感と千枚田を造りだす神秘の湯に感謝、「ナンマイダー」。では皆さん、健康で素敵な湯巡りを。